浦和地方裁判所 昭和39年(ワ)204号 判決 1968年5月09日
原告 東邦燃料株式会社
右代表者代表取締役 渡辺耕二
右訴訟代理人弁護士 柳沼八郎
同 田邨正義
同 大橋堅固
被告 星野志け
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 金子秀男
被告 横内純夫
右訴訟代理人弁護士 川本彦四郎
同 高木義明
主文
被告等は、原告に対し各自金一五、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三九年六月一日から右各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
第一、原告の被告志け、同景一に対する請求について
一、被告景一が訴外会社の代表取締役であったこと、被告志けが被告景一の実母であり、被告横内が司法書士であることは原告及び被告志け、同景一間に争いがない。
二、原告の訴外会社に対する債権及びその数額について
≪証拠省略≫および弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和三六年頃から訴外会社の金融の為訴外会社に対して約束手形を振出し、割引等に利用せしめ、期日に右手形の支払いをする一方、原告はその見返りとして訴外会社から約束手形の振出を受けて所持していたところ、昭和三八年一〇月七日において原告の所持する右手形は別紙手形目録記載の各手形三七通合計金二四、二〇九、八九〇円であり、原告が右訴外会社に対して有する手形債権は右金額から原告が内入弁済を自認する金五〇〇、〇〇〇円を控除した金二三、七〇九、八九〇円に達していたこと、原告は訴外会社に対して、昭和三八年一〇月二日現金一、〇〇〇、〇〇〇円を、同月七日現金一、六九七、一四八円を、各貸付けたこと、そして、同月七日、原告の代理人訴外酒井則雄は、訴外会社代表者被告景一との間に訴外会社が原告に対して負担する前記約束手形金債務及び貸金債務の合計金二六、四〇七、〇三八円のうち、金二六、〇〇〇、〇〇〇円を貸借の目的とし、その弁済期を同年一二月三〇日、利息を日歩四銭とする準消費貸借契約を締結したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫
三、本件各契約の成立について
(一) ≪証拠省略≫を綜合すると、本件土地は、昭和三三年一一月二七日、被告志けが相続により所有権を取得したが、それ以前から訴外会社が敷地として使用していたこと、右土地に対しては訴外会社の債務を担保する為に、昭和三五年一一月二九日訴外株式会社埼玉銀行が根抵当権設定登記を、昭和三七年五月三〇日、右訴外銀行を代理人とする訴外中小企業金融公庫が抵当権設定登記を、昭和三八年一〇月三日、訴外韓基一が根抵当権設定登記及び停止条件付代物弁済による所有権移転仮登記をそれぞれ経由していること及び右各登記に際して被告景一が被告志けの実印を使用して登記申請を行っていることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫右認定事実によれば、被告志けは、昭和三五年頃から本件土地を訴外会社の金融のため担保に供すること及びその登記をなすことにつき被告景一に包括的な代理権を授与していたものと推認することができ、右推認を覆えすに足る証拠はない。更に≪証拠省略≫によれば、原告が昭和三八年一〇月七日、訴外会社に対して前記の如く金一、六九七、一四八円を貸付けた際、被告志けの自宅において訴外酒井が、原告の訴外会社に対する債権担保の為本件土地に担保権を設定することを求めたところ、被告景一とともに同席していた被告志けがこれを同意したこと、そして、その後直ちに被告景一が被告志けの実印を使用して後記の如く本件土地につき担保権を設定したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。以上の事実によれば、被告志けは被告景一に対して、担保権の種類、被担保債権の価額を決定することを含めて本件土地につき担保権を設定する権限及びその登記をなす権限を授与したものというべきである。
(二) そして、≪証拠省略≫によれば、右同日原告代理人訴外酒井と被告志け代理人の被告景一が被告横内の事務所において、前記準消費貸借契約上の債権金二六、〇〇〇、〇〇〇円を被担保債権とする本件各契約を締結したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(三) ところで、被告星野両名は抗弁として
(1) 本件各契約には、いずれも本件土地を他に売却することにより効力を失う旨の解除条件が付されていたと主張するので(被告等の抗弁(二))判断するに、≪証拠省略≫によれば、昭和三八年七月頃より訴外会社の資金繰りが苦しくなり、原告の同会社に対する支援金額も急増したため、其頃訴外酒井と被告景一の間で訴外会社の債務の整理及び再建の為本件土地の売却が画策され、一方原告の訴外会社に対する債権の為に本件土地に抵当権等の担保権を設定することの交渉がなされていたこと及び本件各契約の成立の頃も本件土地の売却が試みられていたことが認められるけれども、進んで被告主張の如く、右売却が、右各契約に対して解除条件とされていたことを認めるに足る証拠はない。
(2) 右各契約はいずれも被告志けの承諾により効力を生ずる旨の停止条件が付せられていたところ、被告志けの不承諾の確定により各契約は無効となった旨主張するけれども(被告志け、同景一の抗弁)、全証拠によるも右事実を認めるに足らず、かえって前記認定の如く、被告志けは右各契約の締結につき予め被告景一に対して代理権を授与していたものであるから、結局右抗弁も理由がない。
(四) 次に、同月七日原告の代理人訴外酒井及び被告景一が被告横内に対して、前記各契約にもとづく抵当権設定登記並に所有権移転請求権保全の仮登記の各申請手続をなすこと及び登記義務者たる被告志けの本件土地の登記済証に代る保証書の作成方を委任したことは、原告及び被告志け、同景一間に争いがなく、又被告景一が同横内に右委任をするにつき被告志けより代理権を授与されていたことも前記認定のとおりであるから、結局被告横内は原告及び被告志け双方の代理人としての地位を有していたものというべきであるところ、被告横内が同月九日右委任にもとづき浦和地方法務局川口出張所に右各登記の申請手続を行い、同日受理されたことは、右当事者間に争いがない。
四、被告志けの責任
ところで、被告志けは原告に対し、前記各契約にもとづき誠実に本件各登記を完了させる義務を負うものであるところ、≪証拠省略≫によれば、本件各登記申請は本件土地の登記済証に代わる保証書を提出してなされた為、前記出張所は、昭和三八年一〇月一〇日頃被告志けに対して不動産登記法第四四条の二第一項の通知を郵便をもって行い、右通知は其頃被告志けに到達したものの、被告志けは右申出をなすべきことを知りながら前記三週間の申出期間を徒過したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。又、被告志けが昭和三九年四月四日、本件土地を原告主張の額で訴外福田産業に売り渡したことは、原告及び被告志け、同景一間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、原告のためにする前記各登記がなされないまま、昭和三九年四月五日右訴外福田産業が本件土地につき右売買による所有権移転登記を経由したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。そうすると、被告志けによる前記申出期間の徒過並びに右訴外福田産業に対する所有権移転登記の経由によって被告志けの原告に対する前記各契約上の債務は結局履行不能となったものというべきところ、原告は右履行不能のため、後記認定の如き損害を蒙ったものであるから、被告志けは民法第四一五条により原告に対して右損害を賠償すべき義務がある。
五、被告景一の責任
(一) ≪証拠省略≫及び右認定事実によれば、被告志けが前記のとおり申出期間を徒過した為、本件各登記申請は昭和三八年一一月一日これを却下すべきものとなったが、前記出張所登記官の勧告により被告横内が同月五日これを取下げたこと、その結果、被告横内は右出張所から本件各登記の申請書正本及び登記原因を証する書面に代わる申請書の副本、原告及び被告志けの各委任状、原告代表者の資格を証する書面及び被告志けの印鑑証明書各一通の返還を受けて保管したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、又右各書類を被告景一が被告横内から交付を受けたことは原告及び被告景一間に争いがない。
(二) しかるに、≪証拠省略≫によれば、被告景一は昭和三八年一一月初旬頃、被告横内に対して、「原告との問題は本件土地の売却により解決することに話合いができたので本件各登記は必要がなくなった。」旨の真実に反する事実を申向けて被告横内より前記各書類の交付を受け、右各書類を訴外会社の事務室に隠匿したことが認められ、その結果、被告志けが昭和三九年四月四日本件土地を原告主張の価格で訴外福田産業に売渡したことは原告及び被告景一間に争いがなく、又翌五日本件各登記手続がなされないまま訴外福田産業が右土地につき売買を原因とする所有権移転登記を経由したことも前記のとおりこれを認定することができ、以上の認定に反する証拠はない。右事実によれば、被告景一は被告横内から前記各書類を騙取してこれを隠匿し、為に原告の被告志けに対する本件各登記請求権の実現が不能となったものというべく、よって、原告は後記認定の如き損害を蒙ったものであるから、右は被告景一の不法行為であり、被告景一は民法第七〇九条により原告に対して右損害を賠償すべき義務がある。
第二、原告の被告横内に対する請求について
一、被告横内が司法書士であり、昭和三八年一〇月七日、原告、被告志けの代理人である被告景一から、本件各登記手続をなすこと及び登記義務者たる被告志けの本件土地に関する登記済証に代る保証書の作成を委任されたことは、原告及び被告横内間に争がなく、しかして昭和三八年一〇月七日当時、原告が訴外会社から振出し交付を受けて所持していた約束手形が別紙手形目録記載の三七通であり、その手形金残額が合計二三、七〇九、八九〇円であったこと。原告が、その主張の日に訴外会社に対して一、〇〇〇、〇〇〇円および一、六九七、一四八円を貸付けたことは≪証拠省略≫並びに弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、又右委任契約締結につき原告を代理したのは訴外酒井であったこと、及び右抵当権の被担保債権が原告の訴外会社に対する、金額金二六、〇〇〇、〇〇〇円、弁済期昭和三八年一二月三〇日、利息日歩四銭とする準消費貸借契約にもとづく債権であることは、既に認定したところであり、右認定に反する被告横内の主張は採用できない。しからば、被告横内は受任者として原告に対し、本件各登記手続完了を目的とする善良なる管理者の注意義務を負担するものといわねばならない。しかるに、被告横内は同月九日右委任にもとづき原告及び被告志けの双方代理人として浦和地方法務局川口出張所に右各登記の申請をなし、右は同日受理されたが、昭和三八年一〇月二九日右各登記の申請を取下げ、更に前記出張所より返還を受けた原告主張の各書類を被告景一に交付したことは原告及び被告横内間に争いがない。
二、被告横内の責任について
被告横内は、抗弁として
(一) 原告及び被告志け間において本件各契約が締結されたとするも、本件土地が他に売却せられることにより右各契約は失効する旨の解除条件が付されていたと主張するが(被告等の抗弁(二))、右を条件とすることにつき右当事者間に合意が成立したことを認め得ないことは前記認定のとおりであり、右主張は理由がない。
(二) 被告横内は、その主張の如き事情からして、本件各登記申請の取下げにつき、原告及び被告志けから代理権限を授与されていたと主張するので(被告横内の抗弁(一)の(1))、右の点につき判断するに、≪証拠省略≫を綜合すると、本件各登記申請は、いずれも登記済証に代る保証書を提出してなされたので、前記出張所は被告志けに対し、不動産登記法第四四条の二第一項所定の通知を昭和三八年一〇月一〇日に発したところ、被告志けが同第二項所定の申出期間を徒過した為、いずれも同法四九条第一一号により昭和三八年一一月一日に却下されるべきものとなったが、右当時前記出張所においては、右の如き場合には、直ちに申請を却下せず、申請人に対して取下げの機会を与え、取下げの場合取下書に右申出期間経過以前の日付を記載させていたこと、本件についても前記出張所登記官は同月二日被告横内に右各登記の申請の取下げ方を勧告し、被告横内は同月五日右勧告に従って「申請書類補正のため」なる理由を付し取下げを行い、その際、取下書の日付を前記申出期間経過以前である昭和三八年一〇月二九日と記載したものであることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。ところで、一般に司法書士が登記申請に関する委任を受けた場合、司法書士は専ら登記の完成を目的とする行為をする権限を有するにとどまり、特別の授権がない限り任意に登記申請を撤回ないし取下げをすることはできないと解すべきであるけれども、前記認定事実によれば、本件各登記申請は却下を免れ得ないものであって、且つ当該法務局が便宜上認める「取下げ」の措置が登記関係者双方にとって利益があると認められるのであるから、被告横内が本件「取下げ」措置を講じたことは、当初の委任契約によって授与された権限内の行為というべく、従って、右代理権に関するその余の抗弁(被告横内の抗弁(一)の(2)、(3))につき判断するまでもなく、被告横内には右の点については債務不履行はなかったものということができる。
(三)(1) 被告景一は、同横内主張の如き理由により、本件各登記申請取下の場合において同被告から前記各書類を受領するにつき原告を代理する権限を有したものと主張するが(被告横内の抗弁(二)の(1))、右各書類のうち、原告において受領権限を有するものは原告の委任状、原告代表者の資格を証明する書面及び本件各登記申請書の正本副本のみであり、被告志けの委任状及び印鑑証明書はこれに該当しないものであるから、右の各書類は本件各登記手続完了の場合であると、取下げによる未了の場合であるとに拘らず、そもそも原告の被告景一に対する右受領権限付与の対象たりえないところである。そして、右の各書類についても≪証拠省略≫によれば、原告代理人訴外酒井は、被告志け代理人被告景一とともに本件各登記の申請手続等を被告横内に委任した際、右各登記が完了した場合に被告横内から右書類を受領する権限を被告景一に授与した事実を認めることができるけれども、進んで原告と被告志けの利害が鋭く対立している登記未了の場合にも受領の権限を与えたものと認めるに足る証拠はない。よって右抗弁は採用できない。
(2) 次に、仮りに被告景一が右の如く前記の各書類の受領権限を有していなかったとするも、被告横内にはその主張の如き事情により民法第一一〇条の表見代理が成立すると主張する(被告横内の抗弁(二)の(2))ので判断するに、右の各書類については登記完了の場合においてさえ原告が被告景一に対してその受領権限を付与し得ないことは前段説示のとおりであるから民法第一一〇条適用の前提たる基本代理権を有せず、従って同条所定の表見代理が成立する余地もないものというべく、又右の各書類については、前記認定の如く、被告景一は登記完了の場合に原告を代理して右書類を受領する権限を有しており、又被告景一が被告横内に対して虚偽の事実を告げてその書類の交付を受けたものではあるけれども、そして、又仮りに被告横内の主張する如き事情が存したとしても、司法書士としての通常の注意をもってすれば、登記未了の場合には登記完了の場合と異なり、登記関係書類が登記義務者たる被告志け又はその他の第三者に交付されることにより登記権利者たる原告が不測の損害を蒙る可能性があることは、容易に予見しうるところであるから、単に前記各事実をもってしては未だ被告景一に右代理権ありと信ずるに足る正当な事由があるとは認め難く、被告の右抗弁は採用できない。しからば、右の各書類については受領権限なき被告景一に対してこれを交付した点において、同の各書類については被告景一が被告志けからその受領権限を付与されていたか否かを問わず、被告横内において前記の如く登記権利者たる原告の蒙るべき不測の損害に備える為、同人の同意を得て後これを被告景一に交付すべきであるのにこれを怠り交付した点において、いずれも被告横内は原告に対する受任者として守るべき善良なる管理者としての注意義務を怠ったものというべきところ、≪証拠省略≫によれば、右の結果、被告志けが昭和三九年四月四日、本件土地を原告主張の価格で訴外福田産業に売渡し、翌日本件各登記手続がなされないまま右訴外福田産業が右土地につき売買を原因とする所有権移転登記を経由したことが認められ、右認定に反する証拠はなく、よって原告は後記認定の如き損害を蒙ったのであるから、右は被告横内の責に帰すべき債務不履行というべく、被告横内は原告に対し民法第四一五条により右損害を賠償すべき義務がある。
第三、損害の発生
被告志け及び被告横内の各債務不履行、被告景一の不法行為により、原告は本件土地に対する抵当権及び停止条件付代物弁済契約にもとづく所有権の移転を第三者に対抗する手段を欠くこととなった為、右各担保権の実行が著しく困難になったことは容易にこれを推認しうるところであり、しかも、訴外会社が本件土地を福田産業株式会社に一二〇、〇〇〇、〇〇〇円で売却したこと前記認定のとおりであり、従って、原告の為に本件各登記がなされたならば、原告は訴外会社に対して有する二六、〇〇〇、〇〇〇円の被担保債権を回収することができ、右土地にはその担保力が充分存したというべきところ、≪証拠省略≫によれば、訴外会社は昭和三八年一一月二〇日不渡り手形を出して支払不能となったこと、原告の訴外会社に対する前記金二六、〇〇〇、〇〇〇円の債権から訴外会社が原告に対し弁済したことにつき当事者間に争いなき金九、三五七、八四五円を控除した金一六、六四二、一五五円が回収不能となったことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。しからば原告は、被告等の債務不履行又は不法行為により右と同額の損害を蒙ったものといわねばならない。
第四
一、被告等の相殺の抗弁(被告等の抗弁(一))および原告の再抗弁について
原告が昭和三九年五月頃、訴外会社所有にかかる被告等主張の機械二点を売却したことは当事者間に争いがない。そこで右売却処分は権原に基づくとの原告の再抗弁について判断する。≪証拠省略≫によれば、訴外組合は昭和三五年一月二一日、訴外会社との間に譲渡担保付継続的手形割引等取引契約を締結したが、昭和三八年一一月一八日、右訴外組合の代理人訴外小泉政雄と訴外会社代表者被告景一の間で右譲渡担保の目的物であった訴外会社所有の機械五点のうち、原告主張のボーリング盤及びラジアル盤各一点を右の譲渡担保の目的物から除外し、代りに被告等主張の機械二点をその目的物とすることを合意したこと、原告は昭和三九年四月二一日、右訴外組合により右組合の訴外会社に対する前記契約にもとづく債権金二、二五〇、〇〇〇円を譲渡担保権と共に譲受けたこと、右訴外組合は、同月二二日頃訴外会社に到達した内容証明郵便をもって右債権譲渡及び譲渡担保権の譲渡を通知したこと、そして、原告は同月二九日右譲渡担保の目的物を金四、三五〇、〇〇〇円で売却し、その代金をもって右譲受債権に充当したこと、及び右の残額金二、一〇〇、〇〇〇円については、その頃、原告が訴外会社に対して有した債権と対当額において相殺する旨を、昭和三九年六月一日頃訴外会社に到達した内容証明郵便で通知したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫右認定によれば、原告による被告等主張の各機械の売却は、原告の訴外会社に対する適法な譲渡担保権の行使であるから、右が不法行為に該当することを前提とする被告等の抗弁はその余の事実につき判断するまでもなく失当といわざるを得ない。
二、被告横内の過失相殺の抗弁(被告横内の抗弁(三))
≪証拠省略≫によれば、訴外酒井及び訴外柳沼八郎は昭和三八年一二月二四日頃より、被告横内、同景一及び被告志けの代理人会田弁護士と面接して事態の解決に努力し、又本件土地の売却代金について浦和地方裁判所に仮差押の申請をなす等の手続を行ったことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。右事実によれば、被告横内が主張するように、原告において本件土地に対する処分禁止の仮処分等の措置を採らなかったとしても、未だ損害の発生につき原告に過失があったとは認め難く、被告横内の過失相殺の抗弁は採用できない。
第五、結論
以上によれば、被告志け及び被告横内は債務不履行により、被告景一は不法行為により各自原告に対し、前記一六、六四二、一五五円の損害賠償すべき義務がある。
よって、被告等に対し、右損害のうち各自一五、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の後であること記録上明らかな昭和三九年六月一日から完済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当であるからこれを認容し、なお仮執行宣言の申立については本件事案に鑑みこれを付すのを不相当とするから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小池二八 裁判官 松澤二郎 神原夏樹)
<以下省略>